若手建築家・中村幸浩氏が二世帯住宅の自邸としてデザインしたのは和の要素を取り入れた瀟洒な佇まいの住宅。平屋造りのような大屋根が醸し出す安定感やこだわりをもった作庭が改めて日本建築の美しさや自然と共にする生活のクオリティを考えさせてくれるようなプロジェクトです。
広々とした敷地に配置された水平ラインの美しい建物の長手方向にあたる正面ファサード。既存の樹木を含め新たに植栽されたたおやかな庭が和モダンな家をこの上なく調和しています。昔ながらの木製引き戸の玄関を挟んで大きな開口が庭に向って配置されています。緑の木々が落す影や木漏れ日によって彩られる外観は季節や時の移ろいによって様々な変化を見せてくれそうですね。
屋根の勾配がそのまま天井に反映され、深い軒を作っています。雨樋を設けていないすっきりデザインされた軒から雨の雫が石に落ちる様子や濃淡に富んだ植樹の風に揺れる姿など風情のある景色を季節を問わず観賞できる美術館のような趣きのリビングです。細長い平面に高さのある天井がユニークなプロポーションを生み出し、「自然体で暮らせる家」と同様に意識が外に向うような構成は壁一面に沿って設置されたベンチで強調されます。木張りの壁やウッドフロアが醸し出すナチュラルなテイストにミッドセンチュリーデザインの照明がアクセントとなったインテリアセンス溢れるシンプルかつお洒落な内部空間です。
連続する化粧梁が空間に奥行きをもたらし、軒まで伸びることによって内外空間の一体感を強調。引き戸式の開口を開ければ庭がよりいっそう近くなります。壁に切り取られた開口の背後はキッチンでしょうか、リビングダイニングと程よく仕切られ、料理をしながら素敵な眺めが望める賢いアイデアですね。
こちらは日本建築の要素をふんだんに取り入れた玄関。左官壁や天然素材で仕上げた天井、障子の間仕切りやニッチを利用した飾り棚などなど。しっとりと落ち着きを持つと同時に建物内を貫く真っすぐな廊下や躍動感のある梁がもたらす風格がうまく調和した和モダンな住宅です。
こちらは主に畳で構成される住空間です。玄関同様に木の素材を張った天井や聚楽壁、障子やルーバー式の間仕切りなど親しみのあるエレメントでまとめています。琉球畳にすることですっきりとしたモダンな雰囲気も加えていますね。
和室の外には濡れ縁を配置。障子を閉めれば庭の樹木の影が室内を彩り、開ければ連続性を生み出します。そして濡れ縁で日なたぼっこやお花見なんかも素敵ですよね。深い軒下に現れたたおやかな中間領域が、豊かな日常生活を生み出してくれます。